火災の発生の仕組みと防災法をまとめた書籍のレビューです。
辻本誠さん(東京理科大学総合研究所火災研究部門教授)という火災科学の専門家が書かれた本で、過去の実例とデータに基づいて科学的に解説した内容になります。
全般的に専門用語が多く、素人には少し難しく感じましたが、その中でも「これは役立つな」という箇所がいくつかあったので、内容のレビューとともにポイントをまとめていきます。
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①火災で犠牲になりやすいのは高齢男性
本に記載された火災時の犠牲者を示したグラフでは、年齢が高くなるにつれてリスクは高くなっていくということです。
その中でも高齢男性のリスクが女性の約2倍に上がっているということ。
その理由は、すぐに逃げるか、火を消そうとするかの差ではないかとみられています。
書籍ではその理由を、
・高齢男性は責任化があり、真面目
・燃え始めたら必死に消化に努める
などにあるのではと考えていて、確かにこれはあり得るなと思いました。
私が住んでいたマンション火災でも、父親が最後まで貴重品を持ち出そうとしていましたし(とにかく早く出ろと怒鳴りましたが)、阪神淡路大震災のときでも、倒壊した隣家の中に生き埋めになった方を助けようと、危険を顧みずに一人で瓦礫を掻き出していたほどです。
⇒【火災体験談その2】再び自宅マンションが火事に見舞われた話
⇒【災害体験】20年前の阪神淡路大震災で体験したこと、感じた事
私より上の世代の男性の良い点だとは思うのですが、やはり命の危険という点ではリスクを高める可能性があります。
著書でも
「家を守ろうとか、延焼させないように考えるとか、消そうとする動機は色々だろうが、その結果、服に燃え移ったり、一酸化炭素中毒にやられたりして、犠牲になってしまう」
「自分の体力の減退に自覚がないので、逃げようと思ったときにはすでに手遅れ」
と書かれており、火災に関してはとにかく逃げることの大切さが強調されています。
ポイント
火災ではとにかく「逃げるが勝ち」
②小さな火事でも侮るな
周りに火が燃え移ってしまう大火事だけでなく、ごく小さな規模の火災でも死者が発生する危険があるとしています。
その大きな死因は「一酸化炭素中毒」。
一酸化炭素とは、
一酸化炭素(CO)は無味無臭の気体で極めて毒性が強く、空気中における濃度が0.02%(200ppm)に上昇すると頭痛などが起こり、さらに、濃度が上がると吐き気、めまいなどの中毒症状が進み、最悪の場合、死に至るなど身体に大きな影響を与える物質です。
ということで、主に暖房器具や調理中に部屋の換気が不十分なことで中毒症状に至るとされています。
著書で紹介された具体的な例として、
「ろうそくの火がビニールに燃え移り、くすぶり続けた」
「台所のテーブルの上に何かの燃えかすがあった」
「椅子や座布団が燃えた」
「ベッドが燃えた」
が挙げられています。
私自身も過去数度の火災体験があるのですが、そのときの一つで犠牲者が出たときは、調理中の不手際で火がキッチンに燃え移って、そのときに発生した一酸化炭素中毒が直接の死因だとは聞いています(人づてなので不確かですが)
そうした情報から分かることは、とにかく暖房器具や火を使う調理などの際は必ず換気をすること。
万が一にも火災が発生した場合には、本当に小さい火災なら据え置きの消火器で鎮火の努力をする、天井にまで上がるような火災にまでなっていたら手遅れなので、とにかく逃げることが大切です。
すぐにその場から離れて逃げることが先決だといえます。
ポイント
・調理や暖房時には換気を定期的に行う
・火災になったら消さずにできるだけ早く逃げること
・逃げる時に119番を行う、大声で周囲に火災であることを告げること
③着衣着火の防ぎ方
服を着たままで火が燃え移ったしまうことを「着衣着火」といいます。
その原因の多くは、調理中にパジャマやシャツ、セーター等の上衣の素手や裾に着火したケースだといいます。
大半がガステーブル等から火がついているとのことで、ガスコンロを使用している家庭は油断は禁物です。
最近は戸建て・マンションでも電気コンロを設置しているところが増えているため、著書が引用したデータ時よりは状況が変わっているといるかもしれません。
一方でレストランの調理場などでは火力の強いガスを使用しているので、着衣着火の危険は十分にあります。
この章で一番ポイントだなと思ったのは、アメリカでの着衣着火の教育についてのくだり。
・バーベキューが盛んなアメリカでは、着衣着火はかなり以前から課題とされている
・衣服に火が付いた時に駆けまわると火勢をあおって逆効果になるので、火が衣類に着いたら走らずに地面に転がることを推奨している
・「Stop, Drop and Roll」という標語にして教育している
上の写真は実際の「Stop,Drop and Roll」の訓練も要ですが、このように衣服に火が付いたら、走り回らずに「床に転がって消す」ということが大切だということを述べています。
バーベキュー文化が生活の中に定着しているアメリカならではの訓練で、大人だけでなく子供にもできるので、小さいころからこうした練習を行うのは非常に良いことだと思います。
地震時の避難法「シェイクアウト」と同様に、いざという時の着衣着火の対処法として「ストップ、ドロップ・アンド・ロール」を日本でも取り入れて欲しいと思います。
ポイント
服に火が燃え移ったら、走り回らずに「床に倒れて転がる」こと
④消火器について
身近な鎮火ツールといえば消火器が挙げられます。
建物や駅、電車の中など公共の場所の他、マンションの共用廊下や家庭のキッチンなど、多くの場所で見ることができます。
ここで著書が述べているのは「消火器のメンテナンスに関すること」と「消火器の使い方」についてです。
メンテナンスに関しては、
とあり、古くなった消火器を使用することで、逆に身の危険が及ぶ可能性を示唆しています。
そうならないための耐用年数のチェック法や処分先の問い合わせ先として、日本消火器工業会のサイトを紹介していますので、気になる方はチェックしてみてください。
次に「消火器の使用法」です。
著書では「実際に消火器を使用するときは、放出口をできるだけ火元に近づけて噴出できるかが、火を消せるかどうかの境目になっている」とのこと。
消火器の先を火元に近づけると簡単にいいますが、これは結構怖いのでは・・と真っ先に考えてしまいました^^;
もしそれが小さな火災ならまだいけそうですが、少し大きくなった火だとこちらまで燃え移ってきそうですからね。
実際に実験ではその勇気をもった学生が、他人よりも一歩前に出て消火剤を放出したことで鎮火に成功したとあるので、勇気を奮う価値はあるのかもしれませんが・・
ほかにも
・消火で消せる目安は、室内火災の場合は「火災が天井に達するまで」が限界
・火災が天井に達すると、天井に広がった火災から床面への放射が増え、一挙の火勢が拡大するため
と書かれていて、天井に燃え上がってしまうと、もはや逃げることが優先されるようです。
他にも「65歳以上の男性は消火器を使うのをやめておいた方がよい」とあって、これもこの世代の男性独特の責任感と、それを裏付けることのできない「体力の衰えの自覚のなさ」が関係しているのだと思われます。
最後には「VRを使った消火器による消火訓練」も有効だとあり、むしろ今後はこうした方法の方が効率の良い事前練習になるのでしょうね。
ポイント
・消火器の耐用年数をチェックする(古いものは処分すること)
・消火器を使う場合は、消火剤が出る放出先を火元にできるだけ近づけること
・火が天井の高さまで上がった場合は、とにかく逃げること
・65歳以上の高齢者は消火器を使った鎮火活動は行わないほうが良い
まとめ
以上が書籍の内容レビューと、ポイントのまとめになります。
この他にも興味深い火災の分析内容が載せられていましたが、どれもが素材に関する実験データなど科学的見地からのものが多く、このブログの基本路線である「普通の人が普通に防災するための情報や知識・情報」とは少しかけ離れていたため、取り上げるのは割愛させてもらいました。
書籍の刊行は2011年と少し古いデータになりますが、火事に対しての基本的な防災アプローチは大きく変わっていないと思いますので、そのあたりを含めて今後の火災避難の参考にしたいと思います。
詳しいデータや火災に関する実験等の情報を知りたい方は、ぜひ読んでみてください。
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